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2006年2月12日 (日)

たまごパン

それは、特別な「たまごパン」というわけではなかった。
どこかのメーカーで量産されて普通のパン屋さんの店頭に並んでいる、
ありふれた「たまごパン」だった。
土曜の定時までの仕事を終えて帰宅した彼の父親が、昼食時に食べ残した
「たまごパン」をたまたま持って帰ってきたものだった。
当時はまだ、週休二日は一般的ではなかったのだ。

幼稚園児の彼と3歳年下の妹とが家の前で遊んでいると、夕日の中、手を振りながら
こちらに向かってくる父親が「おみやげ」だと言って「たまごパン」を差し出した。
彼と妹はそのパンを半分に分けて食べた。とてもおいしい、と彼は思った。
適度な甘さとふっくらとした卵の風味が口の中でバランスよく広がり、
夕食前の絶好のおやつとなった。
子供たちに好評を博しているさまを見た彼の父親は、以後しばらくの間、
「たまごパン」を定番のように持ち帰ってくるようになる。

小学校に上がった頃、母親からおつかいを頼まれた彼は、パン屋さんの店頭で
かの「たまごパン」を見かけた。
懐かしいあの味を想い出し、購入しようかと考えたが、彼は思いとどまった。
量産されているただのパンであったが、彼にとって「たまごパン」は
既に特別な存在であったから、金銭によって有限の価値に貶めることを嫌った。
「たまごパン」は、父親のみから与えられる無限の価値を有するもの、
と彼は考えたかったのだ。
その後、「たまごパン」は「サンライズ」という名の別のパンに取って代わられ、
店頭から姿を消した。

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コメント

もう12時過ぎたから昨日になりますがお昼は行きつけの喫茶店のマスターに特製のたまごサンドを作ってもらいました。関係ない・・(笑)

投稿: バツイチ女のひとり言 | 2006年2月13日 (月) 02時19分

「たまごパン」う~ん思い出せないのですが、美味しいのですよね。

投稿: ドジのろまの独り言 | 2006年2月14日 (火) 11時37分

ご来訪ありがとうございます。
週末しか書き込みできないもので、すみません。
(「単身赴任者の悲哀」と思ってご容赦を。)

>バツイチ女さん
シンプルなんだけど、たまごサンドって不思議とおいしいのですよね。

>ドジのろまさん
特別においしいというわけではありませんが、カステラのようにふっくらとした食感がなんとも懐かしい味わいを醸し出していたのですよ。

投稿: たお | 2006年2月17日 (金) 19時04分

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